嗅球摘出ラットの情動過多および脳内モノアミン遊離に及ぼす SNRIおよび SSRIの影響
第12回 活性アミンに関するワークショップ
2008年6月15~16日
| 【演題】 | 嗅球摘出ラットの情動過多および脳内モノアミン遊離に及ぼす SNRIおよび SSRIの影響 |
| 【発表者】 | 村澤寛泰、中谷晶子、松澤京子、松田智美、松下久美、豊吉亨、山口和政 (株式会社日本バイオリサーチセンター) |
| 【はじめに】 | 現在,うつ病の治療には,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI)および選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)が心毒性,抗コリン作用などの副作用の少なさから第一選択薬として使用されている.なかでも SSRIは,Fluvoxamine,Paroxetineおよび Sertralineの3種類が本邦で認可されているが,SSRI間での使い分けについて一定の見解は得られていない.また,SNRIおよび SSRIの脳内モノアミン遊離に及ぼす影響についての報告は多数存在するが,研究機関・研究者により方法の違いもあり,結果の相違が生じ,薬物間の違いを比較することが困難である. 今回,我々はうつ病様の病態を示す動物モデルとして用いられている嗅球摘出ラット (OBラット)を用い, OBラットの情動過多の発現に及ぼす SNRIおよび 3種類の SSRIの影響を検討するとともに,脳内モノアミン遊離に及ぼす影響についても検討した. |
| 【行動薬理学的評価】 | OBラットは,嗅球摘出14日後,縫線核 (5-HT神経),青班核 (NE神経)の機能障害に伴った,前頭前野の機能低下,扁桃体の機能亢進など様々な脳機能の異常が認められ,情動過多が発現することが明らかになっている.嗅球摘出による情動過多の発現は,Milnacipran;トレドミン®錠 (10 mg/kg)および Fluvoxamine;デプロメール®錠 (10 mg/kg)の単回経口投与 (単回投与),Milnacipran (3 mg/kg,10 mg/kg),Fluvoxamineおよび Sertraline;ジェイゾロフト®錠 (10 mg/kg,30 mg/kg)の反復経口投与 (反復投与)により有意な改善が認められた.一方,Paroxetine;パキシル®錠 (10 mg/kg,30 mg/kg)の単回および反復投与では有意な改善は認められず,むしろ 30 mg/kg単回投与では,情動過多の増悪が認められた. |
| 【生化学的評価】 | SNRIおよび SSRIによる情動過多の改善あるいは増悪における脳内モノアミンの関与を検討するため,microdialysis法を用い OBラットの内側前頭前野 (MFC)および扁桃体 (AMY)のモノアミン遊離に及ぼす SNRIおよび SSRIの影響を検討した.OBラットに,Milnacipran (3 mg/kg,10 mg/kg)を単回投与すると,MFCおよび AMYの NE,DAおよび 5-HT遊離量の有意な増加が認められた.Milnacipranを反復投与した OBラットに Milnacipranを投与すると,MFCおよび AMYの NE,DAおよび 5-HT遊離量の有意な増加が認められた.なお,Milnacipranの反復投与による MFCおよび AMYの NE,DAおよび 5-HT基礎遊離量の増加は認められなかった.OBラットに,Fluvoxamine (10 mg/kg,30 mg/kg)または Sertraline (10 mg/kg,30 mg/kg)を単回投与すると,MFCおよび AMYの NE,DAおよび 5-HT遊離量の有意な増加が認められた.Fluvoxamineまたは Sertralineを反復投与した OBラットに Fluvoxamineまたは Sertralineを投与すると,MFCおよび AMYの NE,DAおよび 5-HT遊離量の有意な増加が認められた.また,Fluvoxamine (10 mg/kg)の反復投与により,MFCの NE基礎遊離量の増加,Sertraline (30 mg/kg)の反復投与により,MFCの 5-HT基礎遊離量の増加が認められた.OBラットに,Paroxetine (10 mg/kg)を単回投与すると,MFCおよび AMYの NE,DAおよび 5-HT遊離量の有意な増加が認められ,特に 5-HT遊離量においては過剰な増加が認められた.Paroxetineを反復投与した OBラットに Paroxetineを投与すると,MFCの NE,DAおよび 5-HT (軽度),AMYの NEおよび DA遊離量の有意な増加が認められたが,AMYの 5-HT遊離量は有意な変化はなく,媒体群と同様の推移 (投与後,5-HT遊離量の減少)を示しており,5-HT反応性が消失した可能性が考えられる.さらに,Paroxetineの反復投与により MFCおよび AMYの 5-HT基礎遊離量の過剰な増加が認められ,5-HT反応性の消失との関連が考えられる.また,Paroxetineを単回または反復投与した OBラットは,測定終了時に不安の増強 (全身の筋緊張および不動化)および情動過多の増悪が認められ,Milnacipran,Fluvoxamineおよび Sertralineでは,これらの症状は認められなかったことから,Paroxetine投与による過剰な5-HT遊離が不安の増強および情動過多の増悪に関与していると考えられる.OBラットは正常ラットと比較すると,SNRIおよび 3種類の SSRIの単回投与による MFCあるいは AMYの NE,DAまたは 5-HT遊離量の有意な増加が認められ,各トランスポーターの何らかの変化によりモノアミン遊離の反応性が増大している可能性が考えられる.また,Milnacipran,Fluvoxamineおよび Sertralineの反復投与により情動過多の改善作用が認められた OBラットは,これらを反復投与した正常ラットとほぼ同等の NE,DAおよび 5-HT遊離の反応性,すなわち脳内モノアミンのバランスの取れた状態が認められ,脳機能が正常状態に回復していると考えられる. |
| 【おわりに】 | 情動反応の発現に最も重要とされる扁桃体は前頭前野から抑制的に制御されており,前頭前野の障害は,扁桃体の機能亢進をもたらし,攻撃性・衝動性の亢進,情動不安定性 (負の情動を表出)と関連することが明らかになっている.これらの報告と今回の結果を考えあわせると,嗅球摘出ラットの情動過多の発現に対する SNRIおよび SSRIの改善作用には,SNRIおよび SSRIの反復投与に伴う内側前頭前野および扁桃体の持続的な 5-HT遊離量の増加 (扁桃体の過剰な基礎遊離量の増加を伴わない)が関与していると考えられる.すなわち,SNRIおよび SSRIは,5-HT神経終末での 5-HTの欠落を軽減し,5-HT神経機能の回復に伴って脳機能を正常状態へ回復 (正常化)することで,嗅球摘出ラットの情動過多を改善している可能性が考えられる. |